加藤一二三九段の引退と藤井聡太四段の28連勝と

2017年6月20日、加藤一二三九段が竜王戦6組昇級者決定トーナメントで敗退し、引退となった。

終局後、感想戦を拒否、駒の片付けも行わずにその場を去り、報道の対応もせず、離席中に呼んでいたタクシーに乗って帰ってしまったことに多少の非難があがっているらしい。

まあ、感想戦しないぐらいはともかく、礼儀作法が重要な世界で上位者が駒の片付けも行わず帰ってしまうのは、確かに感心できない行為であることに違いはないだろう。

が、14歳から60年以上続けてきた仕事を失う気持ち、土俵から引きずり落とされ、勝負師として居続けた60余年に終止符が打たれる気持ち。
そんな、本人以外誰であろうと想像も及ばない瞬間を迎えた人を、批難しようという気にはどうしてもなれない。

加藤一二三九段は最後まで勝負師だった。そして勝負の場ではどこまでも自己中心的な人物だった。

昨今バラエティ番組などにもよく顔を出し、ゆるキャラとか癒し系とかのキャラクター付をされているが、見当違いも甚だしい。

その言動を聞けばかの棋士が極めて負けず嫌いだったことは自明である。
それでも畑違いの場所ではサービス精神を発揮したり、求められるままに振る舞うことも厭わないだろうが、棋士として盤に向かうときまで同様のわけはない。
エアコンやらストーブやらの逸話が示す通り、己が力を発揮できる環境を作るためには周囲の迷惑などは顧みない。競争力を落とした棋士にありがちな早投げなどは殆どせず、最晩年まで全身全霊をもって勝ちにいく姿勢を崩さなかった。

そんな棋士が、最後の最後までらしさを見せて終わっていったことに、むしろある種の感慨を覚えたのは自分だけだろうか。
彼の全盛期を知っている方なら尚更なんじゃなかろうか。

何でも急きょ会見を開いた理事たちに、メディアの人間が怒号に近い声も上げていたとかいうが、勉強不足にも程があるだろうと。
あんたらが取材しに訪れた対象の人って、元々そんなんだから。
 


そんな加藤九段引退の翌日に、氏の史上最年少棋士の記録を60数年ぶりに塗り替えた藤井聡太四段が、歴代タイ記録の28連勝を達成。
まあ、手合い係による演出と言われてしまえばそれまでだが、時代は移っていく、すべては流転していくという象徴的な2日間になったなあと。

まあ、記録保持者の神谷広志八段が、タイトル獲得はおろか挑戦も、順位戦A級歴もないことで、若干微妙な感じが漂ってないこともないが、それにしてもデビューから28戦無敗というのは尋常でない。

よく「変な方向に道を踏み外さず頑張ってほしい」とか大きなお世話満開のエールを送る人もいるが、そういうところも本人の資質であり実力。
以前ほどは将棋界に注目していない身であるが、稀代の才能の持ち主がどのような道程を歩むか、刮目したい。


それにつけても、自らの引退と藤井四段の話とで、加藤九段あちこちのテレビに出すぎだろうと。
もしかしたら、感想戦拒否は、翌日以降のハードスケジュールを考えて早く帰りたかっただけのことだったんじゃねえのかな、とか思えてしまったり。

まあ、そんなんもあの棋士らしいな、と。