2018 有馬記念 感想戦

時は来た。それだけだ。

新しくなった地下通路を通り、入場口より足を踏み入れ、そう呟く男がひとり。

平成最後のグランプリ、第63回有馬記念。
この大勝負の行く末を見届けようと、そして勝利の栄光を勝ちとろうと、中山競馬場へと到来。
幸甚なことに空席販売のクリック合戦を制し、今年は指定席での観戦となった。

まあ中山の指定席は狭いわ、ガラスあるわ、そのガラスの縦の仕切りが邪魔だわで、正直イマイチ感は拭えないのだが。
ソロでの参戦なら一般席の人混みの中で立ち見の方が良いかもしんないなぁとか思いつつ、折角なんで悠々とレースを楽しむ。

で、当たらない。
まったく当たらない。

まあ今日は一年で最大の、いや一世一代と言っても過言ではない大勝負。平場の負けなどどうということはないと自分を落ち着かせ、その時を迎える。

上階からパドックをのぞむ。

東京だと5階や6階でも、指定席エリア以外は一般客も入れてしまうが、中山だと階段で門番に止められるため、この眺望は指定席券ゲットした者の特権。唯一東京指定席に優るポイントといえるかもしれない。

当然テレビカメラなどもきていたり、GⅠではお馴染みの着飾ったオーナーさんらにジョッキーたちが挨拶する姿などもあり、華やかな光景ではあるものの、一方でこれから頂上決戦を迎える緊張感も漂っている。
こちらはマークカードに決断のぬりつぶし。

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◆有馬記念

◎⑫レイデオロ
◯③モズカッチャン
▲⑭キセキ
△⑧ブラストワンピース
☆②クリンチャー

【買い目】
馬連 ②③⑫
3連複 ⑫ー②③ー②⑤⑧⑪⑭/②ー③ー⑤⑧⑪⑭

多方面で推されてる内枠のパフォーマプロミスと、外枠ではあるが考えてみたら凡走を続けていた時期は明らかに不調であり、宝塚記念の着差を考えたら無視はできないミッキーロケット。
この2頭は無印としていたが、先行有利という見立てから切るわけにいかないと、3列目に加える。

本馬場入場でいよいよ胸が湧きたち、煽りVでの平成を彩ったグランプリホースたちの勇姿に荘厳とした心持ちになり、どこか別世界にいるかのような感覚でファンファーレを聴く。

時は来た。
 



【着順】
⑧ブラストワンピース △
⑫レイデオロ ◎
⑮シュヴァルグラン
⑪ミッキーロケット
⑭キセキ ◯

案の定オジュウチョウサンがテンで先頭に立ち、まずは良し良しと拳を握るが、読みどおりだったのはここまで。
後は、何もかもが読みを外す、どころか正反対の展開となる。

オジュウを交わし先頭に立ったキセキだが、鞍上の川田は今回これまでと打って変わってスローでの逃げ残りを画策するかと踏んでいた。
が、キセキの競馬はこれだと言わんばかりの、緩みのない逃げを打つ。

究極の過剰人気馬に跨る武豊は、勝ち負け云々よりも、強引にでも先頭を行き、盛り上がりを演出するかと踏んでいた。
が、少しでも上位入着を目指すことこそがプロの仕事だと言わんばかりの、好位追走から抜群のタイミングで追い出す好騎乗。
さすがに現役最強を競うところまでは及ばなかったものの、コンビを組んだ馬が決してただの客寄せパンダではないことを見せてくれた。

あまりに浅はかな考えだった己の無様さに頭を抱えそうになるが、幸いこの厳しい流れでもそこまで先行馬がタレていってはいない。
好位からブラストワンピース、中段からレイデオロが進出、もう1頭にモズカッチャンかクリンチャーが来てくれれば……と願うも、モズカッチャンは距離が長かったか、クリンチャーはやはりフランス帰りは厳しいのか、まったく馬券に絡めそうな位置に出てこれない。

ついに真価を発揮できたブラストワンピースが、古馬最強のレイデオロを下し、3着にはどうやらまだ斜陽ではなかった歴戦の強者・シュヴァルグランが飛び込んできた。
非常に素晴らしいレースだったと言えるだろう。馬券のことを度外視できたなら。

実は今回、今年最後の大勝負だしパーっといこうと思い立ち、JC以来GⅠは地方交流も含めて負け知らずだったこともあって、通常GⅠの4倍の予算を投入していたのだが、全てが霧散。
今にして思えば、慢心だったとしか言いようがない。正月のお餅代も出せなくなる大敗。

結果としては△ー◎だったわけで、本命から印付けた馬に馬連で流し、◯ー▲☆あたりを抑えていても、オッズに応じて強弱つけていれば十分に勝てていた。
それを思うと痛恨の極みだが、元々今回はレイデオロとモズカッチャンの馬連・ワイドのみの勝負でいいかなという気持ちが出発点にあり、そこから捏ねくる感じで買い目を決めていったので、却ってシンプルな馬券にはたどり着き得なかっただろうか。


抜け殻と化した自分が最終レースを当てられるはずもなく、今年最後の現地参戦はボウズに終わってしまう。

人混みの中、西船橋駅まで重い足取りでうなだれて歩いていたところ、脇から「やべー、オレ今月家賃払えねえよー」という声が聞こえてくる。
顔を輝かせそちらを見る。低い人間性の持ち主は、己より底にいる人間の姿を慰めとするものである。

が、声の主は別にどってことないとばかりに仲間と笑いあっており、何より自分にはない若さがあった。

本日歓喜のガッツポーズを決めたジョッキーと同級生の負け犬は、ますます背中を丸め、深いため息をつくしかできなかった。


こちら最終回直前。どう決着するのか。
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