虹の道へと

まだ競馬場に通い始めだった今年の5月のある日のこと。その日の東京メインレースはNHKマイルカップとかいう競走だった。
レースの位置づけもレギュレーションもよく知らぬままスポーツ新聞を開き、まだ見方もよくわかっていない馬柱を眺め、何となく来そうな気がするなーコレ買っとこうかなーと思った大外の馬は、なんと12番人気だった。

思い返してみても、当時枠による有利不利や馬場状態といったファクターはおろか、騎手の名前すら武豊しか知らなかったど素人が、どうしてその馬が来そうと思ったのかわからない。直感といえば少しは格好がつくかもしれないが、実際なんとなく、としか言いようがない。

なんとなく買ってみようと思った、その馬名はレインボーライン。なかなか良い名前だなと感じた。

当時は3連系の馬券はよくわからないので買っておらず、馬連一辺倒。それも3頭ボックスというなかなかに細い勝ち筋をたぐるような買い方をしていた。
そのときのボックスはレインボーラインの他、1番人気のメジャーエンブレムと、もう1頭は多分イモータルあたりだったと思う。

発走。レース展開は、馬券を握りしめラチ沿いで観戦していた自分を大変に熱くさせてくれた。
直線に入り、単騎前を走るは1番人気のメジャーエンブレム。あとは多くが横並びの中、あの12番人気の馬が徐々に上がってきて、抜け出してくる。
おいおいおい、コレ当たっちゃうんじゃないの? 当たっちゃうんじゃないのコレ?

ピンク帽の番狂わせの激走。徹底した本命党の方でなければ大抵味わったことがあるであろう、目をつけた穴馬がまんまと的中をもたらしてくれそうになるときの、あの高揚感、多幸感、万能感が腹からせり上がってくる。

が。その外側から赤い帽子が風のように飛んでくる。
レインボーラインは、遥かに下馬評の高かった2番人気の馬にクビ差で屈し、3着に終わった。
大健闘といえる結果ではあるが、こちらの馬券は紙クズに変わった。まず一番大きかった感情は口惜しさだった。
が、何もわからないなりに目を付けた人気薄の馬が、的中という収穫こそもたらさなかったものの、下馬評を覆し好走してくれたことは痛快だった。完全なる偶然なのにも関わらず、俺の目に狂いはなかった的なドヤドヤ感に包まれる。
このとき、レインボーラインの名はこちらの胸にしっかりと刻まれた。福永祐一の名が刻まれるよりも先のことだった。

その3週間後、競馬の祭典・日本ダービー
3強の戦いがクローズアップされ、競馬ファンの耳目を集め盛り上がる中、あのNHKマイル3着馬もひっそりと参戦していた。
またしても12番人気。最終的に単勝155.4倍という、ほとんど数合わせのような位置づけである。

買い方もよくわからない初心者から、ながしやフォーメーションを覚えたての初心者に少しだけ進歩していた自分は、検討した結果マカヒキを軸とし、紐には残りの2強をまず入れて、そしてその次に入れることを決めたのがレインボーラインだった。
その時点では鞍上の福永が複永であることも知っていたし、また人気薄を覆し馬券内に入るという番狂わせを見せてくれるのではという期待があった。何より、少し前にこの競馬場でこちらの胸を熱くさせてくれた馬を応援したいという気持ちが芽生えていた。

結果、馬券は3強で決まり、自分は的中はしたものの最後に買い目にリオンディーズを入れてしまったためにトリガミとなった。
レインボーラインは掲示板外の8着。しかし好走は見せてくれ、前回最後に差されてしまったロードクエストよりも上の着順でのフィニッシュだったことに少し溜飲の下がる思いだった。

この時点で、自分はレインボーラインのファンになっていた。

時は過ぎ、夏になり、すっかり馬券オヤジと化していた自分は夏のローカルシリーズを満喫していた。
そして迎えた夏競馬最大のレース、札幌記念
このレースの登録馬を見たときに、実際「おっ」と声を上げてしまったことを覚えている。
いよいよクラシックを戦った3歳馬が重賞の舞台で古馬に挑んでいく。その先陣を切るのは、あのレインボーラインだった。

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絶対的に格上であるモーリスに迫る脚を見せての3着。もう半ハロンあれば差して2着になっていたのではという見事な戦いぶり。
3連複ゲット以上に、思っていたよりもこの馬は強いんじゃないか、成長しているのではないかという手応えの方により強い快感を覚えた。

そして、ついにクラシック三冠最後のレース、菊花賞
春はダービーを除いてマイル路線で使われていたレインボーラインだが、倍近くの距離を走るこのレースに堂々参戦。
さすがに人気薄の9番人気であったが、迷わずに軸になってもらった。

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わけあってラジオ観戦となったのだが、レース終盤でレインボーラインの名が出てきたときの興奮たるや。
どうやら勝ちはサトノダイヤモンドであるとすぐにわかったが、そのしばらく後に我らがレインボーが2着入線だったと知ったときの歓喜ときたら。

春の時点では、遥かに格上とされていたディーマジェスティエアスピネルを下しての2着。
間違いなくこの馬は強くなっている。想いは確信に変わった。

そして先日のジャパンカップ
あまりにも位置どりが後ろすぎたことが祟ったということもあると思うのだが、6着に終わり惜しくも掲示板外。
しかし錚々たる顔ぶれの中で上がり最速の脚を見せ、圧勝の1着馬はともかく、2着馬とは0.2秒差、3着とは0.1秒差、4着とはタイム差無しの6着である。
半年前、参加馬の多くが世代の二軍的存在である3歳馬のマイル戦で12番人気だった小柄な馬は、各世代のトップが出てくる最高賞金額のレースで、上位勢と実力において何らひけをとらないところを見せてくれた。

好きな馬は? と人に聞かれたら、自分は迷わずこの馬の名を答えるだろう。
競馬を始めてすぐにこんな馬と出会えたことは、つくづく幸運である。

彼が導く虹の道を、まだまだこれからも歩いていきたい。

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