佐藤天彦名人の三番勝負と、羽生さんとソフトが戦うことについての私見

休日出社の代休だった昨日。録画してある前日放送のNHK杯が佐藤天彦名人ー山崎八段戦、叡王戦が天彦ー丸山九段戦と、その勝者ー羽生さん戦と豪華カードが目白押し。
競馬にのめり込んで以来、たしなむ機会が激減した将棋観戦の1日にしようと、ウキウキで安物の盤駒を引っ張り出し、観る将モード。


NHK杯は名人VS叡王(現行の叡王戦では敗退したけど優勝者が決まるまでは山ちゃんが叡王で良いんだよね?)の注目の一番な上に、解説が羽生三冠という鼻血モノの豪華さ。こちらも正座して観戦に臨む。

戦型は横歩取り。昨今の横歩は後手有利ってイメージがあるが、そのイメージを植え付けたのが今回は先手番の天彦名人であるからして、ここでまた実力者を血祭りにあげようものなら他の棋士にしてみれば始末に負えないことだろう。

が、羽生さんもビックリの山崎八段の端からの果敢な仕掛けから、どんどん後手が優勢になり、勝勢に。
おお、番狂わせと言うと失礼だが、意外にも山崎八段の勝利か? と思いきや、名人戦でも羽生さんを散々苦しめた天彦名人のクソ粘りが炸裂。ただ受けなしになるのを引き伸ばすような粘り方ではなく、相手を幻惑するような受け方が攻めてる側からすればとてつもなく厄介なのだろう。
将棋は不利な方が楽で優勢な方が苦しいと聞いたことがあるが、まさしくこのときの山崎八段は攻めていながら追い詰められている心持ちだったのだと推察される。そりゃほっぺもペチペチ叩くわなと。

結局、山崎八段は30秒将棋の中、確かに存在したという決め手を見つけられずに、名人の大逆転勝ち。あるコンピュータでは評価値−5000がひっくり返ったという。
本当に強い人は、圧倒的に不利な状況からでも勝ちを掴むことができるのだなと、改めて驚嘆。


続いて、叡王戦準々決勝・佐藤天ー丸山戦。
こちらも戦型は横歩取り。丸山九段は先手後手どちらであっても角換わりってイメージがあったので、どうなるんだろうと興味津々で見ていたところ、タダで好形の馬を作らせてしまうスジにうっかりしていたようで、一方的な対局になってしまう。
感想戦で苦笑いの丸ちゃんと朗らかにフォローする天彦。内心は知らないが、このように対戦相手に敬意を現す棋士ばかりなら良いのになぁ。丸山九段は竜王戦と順位戦での活躍を期待したい。

 


しばしの休憩を挟み、いよいよ佐藤天彦名人と羽生善治三冠の黄金カードが実現。この棋戦においては九段と呼ばれるべきかもしれないが、実際には二人とも九段を名乗ったことが一度もないわけで、そう呼ぶことには抵抗を感じる。ここは親しみを勝手に込めて、羽生さん・天彦と呼称することを許していただきたい。

双方着物姿なのを見て、おっコレはお互いに相手のことを強烈に意識をしているって現れか? などと勝手にときめいたのだったが、この棋戦においては準決勝から着物がデフォなのね。
天彦はお馴染みの紫のやつ。これを着こなせるのは、いや、着ようと思うのは彼ぐらいのものだろう。

戦型は矢倉。おお羽生さん先手矢倉で名人に勝てるのか? と思い観ていたところ、将棋とは関係ない事件が。

詳しく記すと長くなるのだが、ザックリ言うと以前iPhoneをiTunesに同期させて以来どっか行ってしまった写真データが戻ってこないかと、将棋を観ながらデータ復旧を試みてみた。

現行のデータのバックアップをとらずに。

写真はじめ、前回の同期以降に入れた様々なデータが失われ(しかも復活させたかった写真データも失われたまま)、泡食って色々操作をしていたところ、なんと後手玉入玉の大熱戦に。

どうも中盤以降羽生さんが劣勢だったようだが、天彦顔負けの粘りと受けの手を繰り出し、逆転への道を切り開こうとする。
そんなレジェンドに対し、無理には決めにいかず、入玉という、それはそれで困難な道を行く現名人。

勝つ手立てがすべて失われ、羽生さん投了。負けてなお、恐ろしさを見せつけた。
何だか凄いものを見た、と思える歴史的名局だったのではないだろうか。

スマホデータを失って右往左往していなければ、さぞかし感動できたのだろう。


まあ、観る将としてもロクに機能できないアホは放っといて、改めて難敵揃いの3連戦(実際にはNHKはだいぶ前の録画だろうが)を全勝した佐藤天彦名人の強さを思い知らされた。
不利になっても強烈な受けと粘りで逆転し、有利になれば間違えない。現在レーティングトップにいるのも頷ける、にくらしいほどの強さ。
この強さを5年10年と維持し、時代の第一人者となれるかはわからないが、その素養は間違いなくある棋士であろう。


さて、この敗戦により、開発者はじめ関係者たちの悲願であるコンピュータVS羽生さんの対局が次回電王戦で実現することはなくなったわけだが、これについては個人的にはどちらかと言えば良かったかなと。

歴代最強の棋士・オールタイムレジェンドである羽生さんがコンピュータに敗れるなどあってはいけないと言う人もいる。
逆に、羽生さんが敗北を喫することで、人間対ソフトという不毛な戦いに終止符を打つべきだと考える人もいる。

どちらもまあ一理はあると思うが、自分はどちらかといえば中間より少しだけ前者よりの考え。
別に対戦するなら対戦するで構わないし、おそらく戦ったら羽生さんが負けるとは思うのだが、それはそれで別に悪いこととは思わない。それにより天才ではあっても完全ではない人間同士の対局の魅力が失われることは無いと思っている。

でもまあ、歴史上最強の棋士とコンピュータの戦いを幻のままにしとくってのもひとつの浪漫じゃなかろうかと。
遠くない将来、将棋ソフトと人間の間は、どっちが強いとかいう発想すら無くなるほど差がつくだろうし、数十年後それは誰にも当然のこととして認知されているだろう。

そんなとき、半ばたわ言と分かっていながらも「でも、あのとき羽生さんがソフトとやっていたら勝っていた」などと主張するオールドファンになるのも良いんじゃないか。

なんて思いはファンの勝手な言い分で、羽生さん自身はやってみたくて仕方ないのかもしれないが。