日本昔ばなし「しゃちくとむしょく」

むかしむかしのこと。


ホワイト企業で働いているA氏は、グレー企業で働いているB氏の話を聞きました。
B氏は曇った表情で言いました。
「私はある会社に勤めているんだけど、毎日30分から2時間ぐらいサービス残業をしているんだ。一応残業の申請はできるんだけど、事前に作業内容を明確にして申し出なければいけないことになっていて、事後申請は認められない。実際には対応が長引いて定時を過ぎてしまうことが多いんだけど、その場合は一切認められない。きちんと事前に申請しても、何かと理由をつけて承認が下りないこともある。本日中にすまさなければならない作業とは認められない、とか言われたりね。実際は終わらせないと翌日が回らなくなるんだけどね。しかも、散々残業した後に申請却下してくるからたまらないよ。他の社員たちもある程度サービス残業するのが当たり前の雰囲気になってて、定時で上がろうとするとイヤミを言われたりするんだ。賞与は一応出るけどたった1ヶ月分。有休? 半分ぐらいとれれば良い方かな」
「それはかわいそうに」
話を聞いて、きちんとタイムカード通りに分単位で残業代が出て、ボーナスは4〜5ヶ月分支給され、有休は使い切るよう促進されている自分の会社はなんて素晴らしいんだと、A氏は幸せな気持ちになりました。

グレー企業で働いているB氏は、ブラック企業で働いているC氏の話を聞きました。
C氏はくたびれた表情で言いました。
「私はある会社に勤めているんだけど、毎日終電近くまで、時には始発まで残業しなくちゃならないんだ。当然残業代なんて出やしない。基本給に残業手当も含まれているらしいからね。休日出勤は当たり前だよ。ていうか休日イコール出勤する日、ってことになっている。根本的に定義が覆されてるね。もちろん休日出勤手当も基本給に含まれている。代休なんてあるわけない。賞与は実績に応じてってことになってるけど支給されたことは一度もない。有休?そんなの見たことも聞いたこともないね」
「それはかわいそうに」
話を聞いて、残業申請が通ることもあって、たまに休日出勤があっても振替の休みはきちんととれ、少額とはいえボーナスもあって、有休も半分は使える自分の会社はまだマシだと、B氏は幸せな気持ちになりました。

ブラック企業で働いているC氏は、無職のD氏の話を聞きました。
D氏は虚ろな表情で言いました。
「僕は仕事をしていなくて、収入はゼロなんだ。実家暮らしだけど、親も年金暮らしであまり裕福ではないから、毎日もやしを食べている。その親が死んだら、家を売って路上生活者にでもなるしかないかな」
「それはかわいそうに」
話を聞いて、この人間と比べたら、まだ自分は社会人として仕事をして給料をもらっているだけマシなんだと、C氏は幸せな気持ちになりました。

無職のD氏は、ホワイト企業で働いているA氏の話を聞きました。
A氏は明るい表情で言いました。
「私はある会社に勤めてるんだけどーー」
「それはかわいそうに」